「模擬授業@」で、授業設計の課題を3つ示しましたが、その観点から考察を深めていきます。
今回は、あくまでも「初歩的な課題解決のエッセンスを組み込み、アクティブラーニングを形成する」ということを目標にしました。簡単に言えば、課題解決の雰囲気を醸し出すだけで十分だということです。
そのため、英語のアウトプットは単純なものにし、与えられたフォーマットの中で思考させるという形に設定しました。また、振り返りに関しては、場合によっては日本語の使用を認め、課題解決と英語の授業というバランスを取るように組み立てました。
課題解決において焦点を当てたのはフロントシフトです。本来、課題解決はバックシフトとフロントシフトがあり、ステップもいろいろあるのですが、ここでは単純な作業しか導入できません。
シチュエーション1も2も状況設定こそ逆転していますが、焦点を当てている部分は実は同じなのです。「何が問題なんだろう、どう解決したらよいのだろう」といった問いに対して、課題から未来を考えるか、解決から過去にさかのぼって考えるかというディレクションが異なるだけです。
あとは、中学生らしい自由な発想で何か話せばいいわけですから、課題解決としては雰囲気を作ったという程度だと言えます。
英語の授業等して、まず1つ目のポイントは4技能の統合です。模擬授業は概して、見学者へのアピールという点からも、オーラルの要素が強くなりがちですが、やはり他技能もバランスよく組み込まれていることが求められます。
そこで、リーディングで議論の素材を与え、アウトプットしてライティングやディスカッション、プレゼンテーションを組み込みました。具体的には、「市長の手紙」を読み、課題解決を話し合い、最後は作文、プレゼンテーションをするというプランにしました(ただし、作文とプレゼンは次回の授業で行う設定になっています)。
次に2つ目のポイントですが、どのようにして生き生きと英語で50分間活動させるのかということです。そこで工夫したのが、議論のフォーマットを用意して、なるべくスムーズかつシンプルにに意見が出せるようにしたということです。また、1つの活動をドカンとやるのではなく、導入、展開1、展開2と小さい活動を設定し、またグループワークと全体の共有を交互にすることによって、テンポよく進むように心がけました。
さらに、文法について補足します。少し難しい話になりますが、「文法項目をどのように活動に組み入れるか」というより、「言語機能を思考スキルにどのように組み入れるか」ということを考えました。
前者は、どの文法を使えるかが重要なので、「比較級を練習させよう」という方向になります。一方で、後者は何ができるかが重要です。比較するというタスクが思考でも言語でもできることが重要なのです。
その点では、比較級まで幅を広げられればベストでしたが、時間や活動の制約もあったので、今回はそこまで求めず、過去と現在の時制を使い分け、2つの違いを議論するという言語活動に焦点を置きました。
3つ目の課題は1時限目との接続です。1時限目の事実分析を最大限生かすにはどうしたら良いのか、ということです。
その際のポイントは、事実分析に目的づけをしてあげるということです。1時限目だけでは「なぜ事実分析をするのか」という活動・思考に対する動機づけがありません。
「売り上げ傾向を分析して、マーケティングを再構築したい」「配球を分析して、相手投手を打ち崩したい」などなど・・・分析するには目的、動機が必要です。
そういう意味で、この2時間目の課題解決が、事実分析の動機づけになるように考えました。言い換えれば、課題解決をするための事実分析だった、ということです。
具体的には2つの活動を通して、事実分析を授業の中で反映させました。1つ目は、導入の間違い探しです。ここでは、1時限目のレビューをすることに加え、事実認識・再生の曖昧性を提示することを目的にしました。
そして2つ目は課題解決のシチュエーション2です。事実に「なぜ○〇なのだろう」とWHYを投げかけて、課題解決の解を求めていくというものです。
授業の最後にまとめとして、私が以下のような例を示しながら、アイデア発想についてアドバイスを出しました。
Q:なぜこの壁は赤いのだろう(赤いことの理由を考える)
A:実はこの壁は暖房機能がついており、適温が保たれている(コートの男性とは多少矛盾するが)
Q:なぜこの駅はトンネルなんだろう(トンネルであることの理由を考える)
A:以前は川を船で渡っていたが、川底を走る地下鉄ができ、交通が楽になった。
Q:なぜこの駅は薄暗いのだろうか。(駅が薄暗いことの理由を考える)
A:幽霊伝説がある町で、あえてこのコンセプトに従って駅を設計し、町おこしに成功した。
もちろん、これだけ見ると奇抜な発想かもしれません。でも、内容は奇抜であっても、まだまだたくさんアイデアを出す自信があります。いろいろな事実にWHYを投げかけて、アイデア遊びをしていくようなものです。
さらに、実はもう1歩踏み込んだ目的として、事実の曖昧性、多面性を提示したいとも考えていました。「赤い壁」と言いながらも、それに理由付けをしようとすると、「なんで赤なんだろう、、、その前に本当にこれは赤なんだろうか。光の加減で赤に見えているのかな。オレンジとも言えるぞ」、、、と考え始めます。
一言で言えば、考えすぎ、思考の泥沼というやつです。単に事実を抜き出すときには、こんな思考にはなりません。
しかし、目的をもって事実を分析したとたんに違う表情を見せてきます。場合によっては、一度とらえたはずの事実を上書き修正しなくはいけません。
もちろん、生徒がここまでたどり着いたとは思っていませんが、1時限目の事実分析を活かすという点はうまく設計できたのではないかと感じました。