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リベラルアーツとは 古代のルーツ

古代ギリシャのリベラルアーツ

まず歴史的にみると、リベラルアーツは古代ギリシャまで遡ることになります。

古代ギリシャと言えば、アテネを代表例とする都市国家ポリスが有名ですが、そこでは奴隷制が敷かれており、人々は
自由民と非自由民(奴隷)に分けられていました。

奴隷と言ってもアメリカの黒人奴隷のようなものではありません。売り買いされ、雇われて家事や生産といった労働に携わる人々のことで、黒人奴隷よりは、現代のサラリーマン的な感覚に近いかもしれません。アリストテレスは、奴隷を機械的な人間と称しています。考えずに機械的に作業をこなしていくからです。

一方、自由民と呼ばれる人たちは、奴隷に労働をさせて、自分たちは哲学やら貿易やらをしていました(意外と、戦争は自由民が自ら行きます)。

ですので、自由民たちは労働から解放されています。目の前の衣食住や生産という生きていくための煩わしい業務は奴隷任せで、気にしなくて良いのです。

では、どうするか。生きるための不安がないので、自分を磨きたいと思うわけですね。これは、私の仮説みたいなものですが、マズローの5段階の欲求説でいうと、下位の物質的欲求の部分は奴隷によって満たされているので、精神的欲求や成長欲求に導かれ、自己実現に向けて学ぶ、という感じでしょうか。

ある意味インテリ金持ちだから許されたセレブ教育です。そこで
「自由民として教養を高める教育」が始まります。これが古典的リベラルアーツの始まりです。

リベラルアーツの始まりには哲学者プラトンの影響もありました。プラトンは、哲人国家論で有名ですが、彼は
「よき哲学者、よき統治者になるには18歳までの少年期に、文芸や体育と合わせて、数学と音楽に関わる教養の素地を身に付けておくべきだ」と主張しました(音楽も符号なので数学的な側面があるととらえられていたようです)。

プラトンはこの時、これらは強制的に学ばせるのではなく、あくまでも
本人の自由意思で学んでいくものだと主張しています。

ちなみに、プラトンの考えがもとで大学は18歳以降になったのかも、と思いました(個人の感想ですよ~)。

そして、もう1つ面白いのは、数学、音楽を哲学の基礎であると考えたことです。
哲学、思想は何かを漠然と考えるということではなく、豊かな感性と論理的思考を持って非物質的世界で突き詰めていくこと、ということなのでしょう。

帝政ローマ時代に体系化されたリベラルアーツ

古代ローマになると、具体的にリベラルアーツの教養体系が提起されていき、自由というものが設定されます。これは文法、修辞学、論理学、算数、幾何、天文、音楽の7つを言います。古代ローマの教養思想をカリキュラムに具現化したようなものです。

さて、ここで少し「arts」という言葉を考えてみたいと思います。

art、、、今では「芸術」という意味合い、しかも美術が一番その意味に近いですね。

しかし、リベラルアーツのartsは、芸術ではありません。ランゲージアーツ(言語学術)、Marshal Arts(格闘技)と言われるのと同じartsです。技術です。でも技術というとテクニック的なニュアンスが強くなるので、ここでは学問という焦点を付け加えて
「学術」という言い方がよりしっくり来ます。

そして、ローマ時代にはそのartsは2つに分かれていました。

職業性、専門性の技術を表す
artes mechanicae(機械的技術)で、これは主に労働、生産に必要なものだと思ってください。ギリシャで言うと奴隷の技術です。もう1つがartes liberales(自由の諸技術)で、これがリベラルアーツに言葉を変えていくわけです。

artsはさらに、artificial(人工的)という言葉と語源を同じくする通り、人が作り上げたものを指します。

では、人が作っていないものは、、、nature(自然)ですね。でも、これは自然に出来上がったものではありません。natureの語源には「生まれる」という意味合いがあります。どうやって自然が生まれたか。。。そう、神です。

つまり、
artは人が作ったもの、natureは神が作ったもの、そしてnatureを突き詰めていくのがscienceという発想です。

リベラルアーツは、様々な学術(arts)と科学(science)の基礎であると考えられていた、ということです。

さらに、まだその上があります。このリベラルアーツとサイエンスを基礎に何を最終的にどこにつながっていたのか、、、それは
哲学であり、最後は神学でした。

古代において神は世界の原点でした。その原点から「人とは何か」「世界とは何か」という問いに対して諸分野での学術を深めていくことになりました。



上の絵を見てください。これはリベラルアーツを表した絵です。リベラルアーツと画像検索したらすぐに見つかります。この絵が古代ローマのリベラルアーツの体系を表しています。

真ん中の円の上部には哲学の女神が位置し、その下をソクラテスとプラトンが支えています。そしてその周りの7つの女神は、哲学につながる7科を示しているのです。

そう考えると、リベラルアーツという考えは、学問とはそもそも
「神を知り、人と世界を知るための術(すべ)」なのだということでしょう。

13世紀になると、ヨーロッパで大学が設立され始めますが、この学問体系がそのまま引き継がれ眞て行きます。

これは、あくまでも「古典的リベラルアーツ」の話で、現代の「リベラルアーツ」とは少し意味合いが変わってきています。しかし、欧米の学問体系は古くはそういう経緯に基づいているため、教育価値観という意味では今も知っておくべきことです。

なお、歴史的な部分については、自分なりに調べ、また知り合いの世界史の教員に確認をしながら執筆しました。多少、私の認識不足のところもあるかと思いますが、厳しい歴史考証の突っ込みはご容赦ください。


参考資料

  • 井野瀬久美恵 学術の動向 2014年5月号
  • 友野伸一郎「文系でも理系でもない新しいリベラルアーツとは」 大学TIMES
  • 山田順「リベラルアーツとは何か」東洋経済ONLINE
  • リベラルアーツとは? ~15年後の『自由』なリーダーへ(ウェブサイト)


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