学部の勉強は教養がベースであり、本当に専門そしてキャリアとしてみなされるようになるのは大学院からです。大学院は、自分の専門しか勉強しません。学部では広く基礎を学び、大学院では1点集中型で専門性を深めるわけです。
キャリアとしても、学士(BA)と修士(MA)の間には明らかな一線が引かれていると言えるでしょう。スペシャリスト=キャリアとしてみなされるわけです。日本ではまだ修士を持っていることがそこまでの意味合いを持ちませんが、特に欧米ではそのような評価がつきます。
もちろん学位で仕事をするわけではありませんが、学位がないとつけない仕事があるのも事実です。そういう意味では、大学院を視野に入れて、海外留学の計画を立てるということも必要になってきます。
前ページの学部留学でもお話ししましたが、正規留学をすると、ノートテイキングなどのアカデミックスキルが身に付きます。特にリサーチスキルとライティングスキルは大学院では必要不可欠です。これらを院で身に付けるというより、これらがないと院では生き延びていくことができません。
教員1人に対する生徒の割合、いわゆるStudent-Faculty Ratioが低く、より少人数での授業となり、教授を交えたディスカッションなどもあります。また、授業は講義やコースワークで学ぶことも多くありますが、教授と相談しながらリサーチを進めていくことも増えていきます。特に修論(もしくはそれに代わる課題)になると、指導教授ができ、その先生とより密接に関わっていくことになります。
さらには、(TA)、Research Assistant(RA)と言われる仕事は、まさに教授のアシスタントです。そういう点からいうと、「教授に教えてもらう」というより「教授につく」という感覚です。
私も本当に教授には恵まれました。大学時代もしょっちゅう教授のオフィスアワーに遊びに行って相談しており、大学院進学もたくさんアドバイスをくれました。大学院時代は、指導教授はThomas Scovelというおじいちゃんでしたが、アカデミックな面はもちろん、何よりも人間的に魅力満載の先生でした。いまでも「師」と呼べる人のひとりです。
学部のページで話しましたが、同じ大学でも大学院のほうが相対的に入りやすいと感じます(反論はあるかもしれませんが)。入学難易度が低い、というのは語弊かもしれませんが、やはり成績、英語力、自立心という点を考えると高校生より大学生のほうが留学を視野に入れやすいものです。
自分の話をすると、私はアメリカの大学院に行きました。これが、高校時代に海外進学にチャレンジできたかと言えば、成績、英語のどちらでもかすりもしなかったでしょう。4年制への直接入学は少なくても無理です。
私の高校時代の評定は、5段階で3より少し高いぐらいです。英語力は高いレベルにありましたが、それは国内受験生としてであって、海外大学に行けたかと聞かれれば、鼻で笑うしかありません。
一方、大学では、学業が充実しており、成績面も英語面でも現実的な可能性として「海外」を考えることができました。どれだけ学業に注力するかによりますが、大学院のほうが海外進学を身近に感じるのは事実でしょう。
1年間の学費は変わりません。欧米であれば1年間であってもそのコストは馬鹿になりません。しかし、4年間行く学部に比べれば、単純にその費用は2年分、イギリス系であれば1年分で済みます。費用という意味では、賞味1年かからないイギリス系の大学院は行きやすいと言えるでしょう。
また、大学院になると、TAやRAといった仕事も含めて、学部よりもアルバイトがしやすいということも言えます。
大学生になれば、留学プランも出願も自分でできるようになります。TOEFLの勉強も自分でできます。もちろんエージェントを使うのか、塾でTOEFLを学ぶのか、それは個人の選択ですが、「自分で勉強、出願できる」という英語力、自立心、スキルがなければ、そもそも大学生もしくは社会人として未熟であり、大学院留学する資格はありません。
私は、エージェントに頼むということはそもそも選択肢として考えたこともありませんでした。教授に相談をし、留学生の友達にエッセイをみてもらったりしましたが、出願校の決定、準備、TOEFLやGREの勉強、ビザ取得など、全て自分でやりました。かかったお金はTOEFL2回分、GRE1回分の受験料と実際の出願料、ビザの料金だけで、10万円ほどで収まったかと思います。今考えても、いちいちエージェントのところに行って、相談したり、手続するのは煩わしいと思います。
自力で勉強、出願するのは大変と言えば大変です。しかし、それが当たり前だと思えば当たり前です。「自分で作る留学」、これがキーワードですね。自分の進路選択に責任を持てる、そして自分の力で進められるというのは大きなメリットだと感じます。
学部よりも奨学金の機会が増えます。有名どころでいえばフルブライトがありますが、日本で耳にする留学奨学金のほとんどは大学院生向けです。また、アメリカなどでは、大学自体から奨学金をもらうことが多くみられますが、それも大学院生のほうが充実しています。特に博士号などになると、TA、RAという仕事とセットで奨学金が与えらることも多く、経済的な負担が軽くなります。
大学院では年齢も経験も多様な人との出会いに溢れています。ほぼ全員が18歳入学という日本の大学とは対照的に、海外は学部でも幅広い年齢層の人が集まります。大学院になったらなおさらです。「その学問に興味がある」という共通項目以外は、それこそダイバーシティに富んでいます。中にはその学問に全然関係ない仕事をしていた人、なんとすでに孫がいる人もいました。
私には仲の良かったアメリカ人の友人が3人いたのですが、びっくりするぐらいバックグラウンドはバラバラです。看護師をしていた50過ぎのおじさん、ぶらぶらと学生活、社会人をやってきた日本人とアメリカ人のハーフ(30代中盤)、芸術系を専攻し、一時はサーカスのバイトをしていたユダヤ系の女性(30前後)という3名です。そこに日本から来た最年少の私が入って一緒に遊んだり、飲んだり、最後は卒業旅行でラスベガスに行き、トランプで遊んでいるうちに飛行機を乗り過ごしたりしていたわけです。
日本人でも親しくしていた留学生仲間が多くいますが、教師を辞めて来た人、企業を辞めてきた人などもいて、最年長は40代の現役教師の方です。大学院でなかったら、彼らは先輩だったり、もしくは出会うことすらなかったであろう人たちですが、彼らと仲間として一緒に学べたというのは大きな価値がありました。
ちなみに、交流関係を言うと、大学院は専門の科目だけを勉強するわけで、そのキャンパスライフがとても狭く、限られています。どのクラスに行っても、知っている顔しかいないわけで、友好関係は必然的に狭く深くなります。私は、気心知れた仲間といるのが好きで、また一人で行動するのも苦ではないので、心地よかったです。
大学院行くと研究が主眼であり、授業も生活も「語学」という側面が薄くなってしまいます。語学力のために大学院進学という人はいないかもしれませんが、研究するのが一番で、語学力向上は二の次です。1〜2年という短い期間ということもあり、「研究ついでにすこし英語を伸ばしたい」程度に思っていたほうが良いかもしれません。
英語力、アカデミックの素地がないと大学院での研究はできません。例えば、大学院でも日本人の中には「英語でリサーチペーパーを書いたことがない」とか「ネイティブとディスカッションするだけの英語力がない」、「引っ込み思案で議論に参加できない」という人がいますが、やはり大学院で勉強していくには厳しいと思います。
学部と違って、アカデミックスキルを身に付けるための授業やESLがあることは稀ですし、留学年数も限られています。アカデミックライフをスムーズにスタートさせるためにも、学部時代に高い語学力、アカデミック力を身に付けたいものです。
「海外進学の本質」というところで、留学=自分を変える場所という話をしましたが、大学院にもなれば、自分を変えるための留学ではありません。留学生活を謳歌しよう、というところまで時間も自由度もありません。
また、大学院となると若くても22歳、遅いと社会人経験してからということになり、10代のころの荒削りで、感受性豊かなころに比べると、人間的に成熟度と余裕が出てくる反面、変化と刺激に鈍感になってしまいます。
そういう意味では、「新しい刺激を求めて」「海外に憧れているから」というピュアな留学マインドというより、「海外のほうが研究が進んでいるから」「有名な教授がいるから」というより現実的で具体的な理由で留学を選ぶ、ということも多くなるでしょう。
これまで、3ページにわたって、1年留学、学部留学、大学院留学のメリット・デメリットを見てきましたが、それぞれ留学の意義が異なるので、その違いを踏まえお金、キャリアプランと相談することが大切です。
ちなみに、過去に戻れるとしても、私は大学院留学を選びます。専門性、キャリア、教授との距離など、アカデミック性が溢れていたことがやはり魅力です。大学生活がとても楽しかったので、学部は留学ではなく、また母校で4年間過ごしたいという思いです。
要は、今のところ自分のとった選択肢は私にとって最善のものだったと思います。そう思えるだけでも、自分の留学は意義がありました。
また今後大学院に戻りたいか?・・・良く聞かれますが、これは答えが難しいですね。大学院での研究は好きでしたし、指導教授も博士課程を勧めてくれました。まだ研究したいこともありますし、海外の大学院に対する憧れは正直まだあります。
しかし、私の英語教授法、グローバル教育という学問は実学ですし、教員をやっていることが一番の研究なので、「教師という立場から教育を見たい」という気持ちのほうが強くあります。
それに、大学院に行くだけが研究ではありません。こうやって皆さんと協力して勉強会を開いたり、ホームページを作成することも、私にとっては大いに価値があります。
なので、人生どうなるか分かりませんが、今はNOという答えですね。