グローバル事業展開をしていきたいとしても、大きな課題があります。いろいろあると思いますが、やはり人材という問題は外せません。
経済産業省の「グローバル人材育成に関するアンケート調査」によると、74%の企業が「海外拠点設置・運営にあたっての課題」として、「グローバル化を促進する国内人材の確保・育成」という項目を挙げました。
何をやるにしても人材がものを言うのです。当然と言えば、当然ですよね。「グローバル人材の確保・育成」は企業にとっても重要な戦略になっているのです。
求められているのは語学力だけではなく、異文化の中で身に付けた強さ、主体性、コミュニケーション能力です。企業はそのような力を持った人材を「宝」という意味を込めて「グローバル人財」と呼んでいます。
特に留学生経験者に対する視線は熱くなる一方です。昔は「留学しても企業は取ってくれない」ということも言われましたが、今では留学経験者は引く手あまたです。グローバル採用枠も広がれば、通年の採用も当たり前になってきました。
ボストンキャリアフォーラムというのをご存知ですか。
日経新聞系のリクルート会社、ディスコが主催している海外にいる日本人留学生対象の就職フェアです。今はボストンに留まらず、ロンドン、ロサンゼルス、シドニーなど、各地に拡大しています。参加企業は約200社で、私たちの知っている企業は軒並み参加をしています。最近はなんと外務省まで参加しています。
そのフォーラムには、就職を求める留学生が全米どころか世界中から集まります。日本の学生がわざわざボストンに行くなんてこともあるそうです。
企業にとっても、出展ブース代がかかりますし、日本から人事部長を派遣するなんてこともありますので、結構なコストがかかるわけです。その時に、「いやー、いい人いなかったから採用出しませんでした」なんて手ぶらで本社に戻れるわけないんですね。担当者の方はこう言うそうです。「就職氷河期ではない、人材氷河期です」と。しかも、グローバル採用枠で、給料は初任給から50万超えなんていう話もなくはないです。
私の教え子でも、1人、高校3年の秋になってから海外進学を決めた生徒がいます。その子は全く優秀ではなく、英語力も大したことない生徒でした(失礼)。しかし、頑張ってコミュニティーカレッジから編入をして、米国ワシントン州の大学を卒業しました。その後、彼女とは日本で会ったのですが、「来週ボストンに行ってきます」と言っていたんですね。どうなったかと言うと、「内定もらいましたー」と次の週にメールが来て、見事フォーラムで電子機器メーカーへの就職を決めてきました。
「新しい上司はフランス人、ボディーランゲージも通用しない♪」
知っていますか。ウルフルズの「明日があるさ」という歌の一節です。2001年の歌ですね。ダウンタウンの浜ちゃん中心に吉本のメンバーが出ていたジョージアCMの音楽です。
それから14年経ちました。まだ全体の2.7パーセント程度(ディスコ調べ)ですが、少しずつ外国人の登用は増えていくと思われます。安倍内閣の『日本再興戦略 Japan is Back』にも打ち出されていますし、少子高齢化を支える新たな労働力としても否が応でも必要になるでしょう。
実際、極端な例では、パナソニック、ファーストリテーリングは採用の8割を外国人が占めています。コンビニでもアジア系の従業員が対応することが増えてきました。他にも、普通の企業に聞けば、「隣のセクションは外国人」とかそんなこともよく聞きます。
教員の世界もそうですね。特に私立学校ではネイティブ教員の数が増えてきたように思えます。前任校では、日本人と同じ職員室に英語のネイティブが8人、中国人が2人、座席を構えていました。隣の席は、英語の教員ではありません。数学、情報、社会科、国語、色々な教科の先生の隣にネイティブが座っていました。私が着任した当時は、私が英語で対応していると、何かと視線を感じたものですが、最後のほうは職員室内で英語が聞こえるのも、私が英語で話しているのも、誰も気にかけなくなっていました。
企業に話を戻しますが、グローバル化のこの時代、外国人顧客が増える以上、外国人を雇うのも必要な手段です。その中で課題が2つあります。
1つは、言語、文化の壁をどのように超えていくのかという現場の課題です。そしてもう1つは、外国人に負けないグローバルな国内生をいかに育てていくのかという育成の課題です。
本質的には日本人の潜在能力は抜群です。日本人は勤勉で、きめ細かで、奉仕・おもてなしの精神もあり、何よりも美しい心を持っています。私は日本人のポテンシャルはどこの国にも負けないと思っています。すでに持つべきものは持っているのです。
あとは、主体性、課題解決力、クリエイティビティ、コミュニケーション能力、語学力、自己肯定感など、グローバルスタンダードなスキルとマインドを身に付け、自分の能力を十二分に発揮できる素地を育てることが急務だと感じます。
安倍内閣が経団連に対し、リクルートについて大きな要請を出しました。就職活動の開始を大学4年生の8月に後ろ倒しするように、という内容です。経団連も2016年卒の学生からその要請に従うことにしています。経団連に入っていない企業や外資系はこれを守る必要がなく、実質はどの企業も水面下で色々な動きをし、形骸化していくかもしれませんが、一応はそういう取り決めになりました。
これまでは大学3年の3月に就活戦線がスタートしていました。留学生が帰国する夏前にはある程度就活が落ち着いていたことになります。
しかし、これからは、留学生も就活スタートの時期には戻ってきています。国内生も留学生も同時に「よーいどん」になるわけです。まだ留学生の数が多くないので、目に見えるほどの影響はないかもしれません。しかし、国内生、留学生、外国人が一緒の土俵に立つといった土壌は仕上がりました。
国内生も負けていてはいられません。留学する一部の学生だけを「グローバル」と言っているようでは、国力の底上げはできません。国内にいてもしっかりグローバルな視野と素養を身につけ、未来の日本を支える一人として、自信と誇りを持って頑張ってほしいと願います。
また、だからこそ、若者だけの課題にせず、日本の中等教育、高等教育のグローバル教育を充実させ、「人財」をしっかりと育て上げていかなくてはならないと感じています。