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模擬国連で得られるもの

模擬国連ではどのようなスキルやマインドが育つのか。いろいろあるのですが、主要なものに絞って、理想論や現実も含めて考えていきましょう。

といっても、単に楽しければ良いんですけどね。何かスキルとかマインド、教育的意義ということを語りたくなるのが教員の悪い癖かもしれません。でも、「教育プログラム」ということで、とりあえず、その観点からも語らせてください。

● 「より良い世界」を追求するマインド

まずは何を差し置いても、私が生徒に願っているのがこれですね。特に、模擬国連にあって、「世界平和、より良い世界」を追求するという姿勢と意識、視点です。

また知識や思考という点では、中高生が国連や国際課題についてここまで知り、考えられるというのは「すごい」の一言です。

● 交渉力、協働力

一言で「交渉力」「協働力」と言いますが、それは一体何か。その一言の中に、いろいろな要素があります。

もちろん、発信する力、説明する力も必要です。自分の立場をはっきり発言しなければ、交渉はできません。

そしてもう1つ。
聞く力。これが一番難しい。自己主張はやろうと思えばできるのです。でも、限られた時間の中で決議案をまとめないといけない、そんな焦った雰囲気の中で、相手から話を聞きだし、理解する余裕と力があるか。特に、意見をぶつけているときには、相手の意見は批判する対象であり、受け入れる対象になりづらいですよね。だからこそ、聞く力、とあえて言いたいです。

さらに、大使はペアで動くのでチームワークが大切です。また、決議案は他国の大使と一緒に作ります。その時に、
押すだけの交渉力は通用しません。なぜか、それは相手が人間だからです。ロボット相手ならロジックさえ通っていれば、解が得られるかもしれません。でも、人間には心があります。押して引いて、チームをつなげていく交渉力が必要ですよね。

● 課題解決力

さらに、相手との妥協点を見出す際に、何が重要で何が妥協できるのか、ロジカルに判断する力が必要です。その際、自分の利益を守りつつ、相手の利益も守る共通点を探る必要があります。単に相手と自分の共通項を重ねたり、足し算するだけではなく、掛け算して新しい価値を見出せるのが理想です。そういう意味では、「妥協」という保守的なものではなく、「Win-Win」を探る課題解決力が求められます。なかなか難しいですが。

ただ、本当に課題解決力が身に付くか、というと何とも言えません。リサーチはたくさんしますが、ある程度は予想範疇内の解決策に終始することも事実です。

最近は、課題解決力などという言葉がもてはやされますが、こういうプログラムで、そう言われるほど、課題解決力が育っているわけではないと思います。それらしいプログラムがあると「課題解決力」とかすぐに声を上げたくなるのが、今の日本の教育の毒された現状かもしれません。

重要なのは、
課題解決の入り口に立たせている、ということですよね。模擬国連で課題解決力が云々というのは具体的には言えませんが、そこに立っているかどうかは大きな違いだと思います。その中で、意識やモノの見方が変わっていくのでは、と期待しています。

一方で、課題解決という点で優れているのは、「なぜここまで解決の考え方が違うのか」と気づくことです。
課題解決における価値観の違い、というものです。日本人の解決策は、言ってもみんな似たり寄ったりです。

でも、国際社会の立場を割り振られることで、日本と違う考え方で課題を見ることがタスクになるんですね。そして、これが国際大会だとわけもわからないほど、本当に混沌とするようです(過去に出場した生徒談)

単なる価値観の違いならスルーできるし、言葉だけ「違いを受け入れる」と言って、なんちゃって異文化理解なんていうのは簡単なんですけど、
同じ課題解決をしている中で価値観が違うということが醍醐味なんです。

しかも、模擬国連の議題には、ほぼ議論にならなさそうな議題も多くあります。世界遺産を守ろう、とか。でも、そういう当たり前のような課題の中にも国によって突き詰めれば、解決策にバリエーションがあり、意見の一致が難しくなるのです。

その中で、自分たちにはない解決策を持論に戦い、議論することで、模擬国連ならではの課題解決力が育まれていくのかもしれません。

こればっかりも、測れるものではないので、正直何とも言えません。でも、あえて言うならそこかな。

● 英語力

会議の進行、スピーチ、決議案は英語で行われます。リサーチも英語のソースにあたるのが情報量は一番多いです。必然的に英語力は身についていきます。模擬国連に本気で取り組んでくれるなら、「英語の授業いらねーんじゃねーか」と思うぐらい英語に触れることもあります。

一方で、「英語力が不足している生徒にどう取り組ませるのか」ということは課題です。学内の取り組みであれば、すべて日本語でやれば良いわけで、学外の練習会や全国大会になると相当な英語力が必要なのは否めません。

この点は、また指導という点から述べたいと思います。

● リサーチ力

間違いなく多くのリサーチをします。練習会の参加だけでも1週間ぐらいは最低リサーチをして、ポジションペーパーという課題を作成したり、英語のスピーチ原稿を用意したりします。

全日大会でNYを狙うぐらいになると、生徒たちはなんと
段ボール1箱分の資料を調べていました。もちろん英語の資料も山ほどあり、国連の過去の決議案なども含まれます。前任校では、模擬国連のためにPCルームに1つ棚を設置してもらったぐらいです。

全日大会に出る生徒の様子を見ていると、夜通しでリサーチし、政策を練っています。ある生徒は、全日大会でNYの切符を手にした翌日、喜びすぎか、知恵熱か、翌日に39度の高熱を出しました(本人には知恵熱と言っておきましたが)。

リサーチのクオリティはそれぞれです。リサーチスキルが身に付いたかと言えば、それも何とも言えませんが、
高校生のリサーチとしては破格のレベルです。これだけリサーチするというだけで、手法や質云々の議論を凌駕してしまいます。

● 刺激

模擬国連で生徒が一番宝にするものかもしれません。他校の生徒からの刺激、そしてそれらの生徒たちとのネットワークです。

模擬国連に参加する生徒は、必ず最初ショックを受けて帰ってきます。他校の生徒のレベルの高さに圧倒されるからです。そして、自分の「頑張ったつもり」程度では通用しないからです。

いやー、本当に他校の生徒を見ていると、「すごいなー、この人たち本当に高校生なの?」と思います。少なくても模擬国連という土俵では、私も論破される自信あります。木端微塵ですね(笑)。

練習大会に参加させる意義の1つはここにあります。生徒たちは井の中の蛙。学校で頑張ったつもりになって、学内で満足してしまう。
そんな彼らに大海を見せて、「こんなすごい同年代がいるんだ」と感じてもらえれば十分です。

そして圧倒されつつも、高いレベルに接することは生徒に楽しさとワクワク感を持たせてくれます。

これまでNY大会に進む生徒も見てきましたが、すごい生徒たちなんだけど、特別じゃないんですね。授業で教えたりしていると、確かに優秀かもしれないけど、類まれな生徒かというと、いや、決して特別じゃない。でも、
模擬国連で自分たちの可能性を高めて、輝いている。それが大切で、「自分たちだってできるかも」と思い、続々と後輩が続いて行きました。

模擬国連に参加すると、その刺激がたくさんあります。ある意味電気ショックのような刺激かもしれません。でも、その刺激の中で、悔しい思いをしながら、自分の可能性にトライしていくうちに、「大海で通用する蛙」になっていくのです。

そして、そのような切磋琢磨の中で、高いレベルの他校の生徒とネットワークを築き、議論し、いろいろな形でつながっていけることはかけがえのない宝ですね。

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