DRへの関わり方には、模擬国連のルール上はスポンサー(共同提出国)、シグナトリー(署名国)という2つの立場があります。
中高の模擬国連ではスポンサーのみが認められていて、シグナトリーは設定されていないことが一般的です。本物の国連会議においても、スポンサーはありますが、シグナトリーはありません。
●スポンサー(共同提出国)・DRの共同提出国であり、そのDRを作った国として認められる。 ●シグナトリー(署名国)
・議場でこのDRが話し合われることについて容認する立場を示す。 |
「会議のゴール」で述べたとおり、DRは1か国単独では提出できません。会議前もしくは冒頭にDR提出に必要なスポンサーの数が言い渡されます。その既定の数のスポンサーを集めて、共同でDRを作成し、提出しなくてはいけません。
そのグループの中でも、作成の中心者となってフロントにDRを手渡しに行く国は「Submitter(提出国)」と呼ばれ、DRのスポンサーリストでも下線部が引かれることがあります。
責任1: 最後までそのDRグループの立場を守らないといけない
・ 途中でDRグループを抜けたい → × 責任2: 自国のDRには賛成票を投じなくてはいけない
・ 自国のDRに反対や棄権票を投じる → × 責任3: 自国のDRを熟知し、説明責任を負う
・ 他国の政策は分からない、説明できない → × |
DRのスポンサーになったら責任が生じます。
初級者に見られる光景ですが「自分のDRグループを抜けたい、他に移りたい」、「別のDRのスポンサーも兼務したい」、「自分のDRに反対をしたい」と言う大使がいます。これらは全てダメです。
スポンサーはDRを提出した国として最後までそのDRに責任を持ち、投票でも賛成をしなくてはいけません。これは当然のルールであり、自ら反対票を投じるようなDRなら何のために提出しているのか、ということです。
また、都合が悪くなったから途中で抜ける、別のDRと掛け持ちするということになれば、「とりあえず名前だけ入れといて嫌なら後で辞めればいい」といったような無責任なDR作成が横行してしまいます。
さらに、全てのスポンサーはDRを熟知し、説明できなくてはいけません。
提出国もそうでない国も等しくこの義務を負います。「私たちは提出国じゃないから」「ここは私たちの政策じゃないから」という理由は通用しません。
スポンサーに名を連ねるということは、自分たちのこだわった政策はもちろん、全ての政策、文言について把握しており、質疑応答ができるということなのです。
確かに、中高の模擬国連ではDR作成を中心になって引っ張る国と、よく分からずに引っ張られる国が生じ、初級者の中には「なんとなくDRグループに入ってしまった」「後になって考えると、別のDRの方が国益に合う」ということもでてきます。
しかし、DRの中心提出国であろうが、それに引っ張られただけの取り巻きの国であろうが、全てが同じ共同提出国であり、等しく責任が生じます。
DRのスポンサーになるということは、「国連という国際会議で公式文書に名前を連ねて提出するということなんだ」としっかり意識して、その責任を最後まで全うしましょう。
そしてその責任の後ろには自国の国民がいて、自分たちの行動1つで自国の利益が損なわれることもあるということを改めて肝に銘じて、スポンサーになりましょう。
そのためにも、「なんとなく」「分からないまま」ということではなく、自国の立場と利益をしっかりと考えてDRに名前を載せることが求められます。
また、一度サインしたなら、賛成票を投じなくてはいけない以上、最後の最後まで責任を持って動かなくてはいけません。
各国がDRグループを形成する中で、そこに入らない大使を「会議難民」と言います。分かりやすく言うと一匹狼です。
出遅れてDRグループに入り損ねた会議難民もいれば、第1段階のDR提出時にあえてどこにも所属せずに、その後の交渉をもくろむ意図的な会議難民もいます。
以前、AIDSを議題にした会議で、サウジアラビア大使を務めるペアが戦略的会議難民になったことがあります。
最初から「○○のような方針の国とは一切組むことができません」と主張し、その後も強硬な交渉態度をとり、DR提出時もどのグループにも属していなかったのです。
後日、彼らと話す機会があり、そのことについて聞いてみたのですが、「自国の利益を守れるDRがなかったので、大使としてサインするわけにはいかなかった」と言っていました。
大使としての責任、DRスポンサーとしての責任を分かっているからこそ、一匹狼になってでも国益を死守する姿勢を貫いたのです。
DRグループを形成することがゴールになってしまう大使が多い中で、冷静に、しかもサウジアラビアという国とその外交特性をしっかり理解して、国民を第一に考えた彼らの会議行動は印象的でした。
ちなみに、その後、そのペアは、DRグループの1つと折衝を続け、後半は修正案作成に関わっていました。
もちろん腕があるからできる大胆な行動で、経験の浅い大使には決して勧められる手法ではありませんが、会議参加の意識という点については彼らから学ぶものはあるでしょう。