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コンセンサス

コンセンサス 

国連会議でよく使われる言葉で「コンセンサス<全会一致の採択>」というものがあります。つまり、全参加国が賛成できるような決議を目指そうということです。

コンセンサスは「全員が満場一致で賛成した」と捉えられがちですが、正確には「積極的な反対がなかった」という意味です。多少の温度差があっても、全員が採択を認めるということですね。

いずれにしても、全会一致なんて無理だろうと思われるかもしれませんが、実際の国連会議でも8割がコンセンサスで決まるということで、それなりに現実にも即した考え方です。

模擬国連では「コンセンサスが理想」という価値観も参加者の中で強く、最終目標として位置づけられている感があります。

コンセンサスの長所は、全会一致で採択されたものなので決議の実効性があり、また国際社会の総意としてのメッセージも強くなります。一方で、短所は、全参加国が足並みそろえて賛成できるような案であるため、具体性に乏しく抽象的な内容になってしまいかねない、ということです。

コンセンサスの求められる会議

特に、緊急対応、即時対応を求められる会議ではコンセンサスが求められます。

例えばISIL(いわゆるイスラム国)が世界各地でテロを誘発し、人々の安全を脅かすということがありますが、このようなテロリズム対策は、世界が足並みそろえて緊急対応する必要があります。

また、寒冷化が万が一起こった場合の食糧危機に対応するという会議では、全世界が一致した対応を取らないとその危機に対応できないという趣旨で、DRを提出するにもコンセンサスでなくてはならないという厳しい条件が課されていました。


コンセンサスと具体性のジレンマ

具体性と引き換えにどこまでコンセンサスを目指すべきなのか。

これは実際の国連でもジレンマになるところです。国際社会のメッセージとして、なるべく多くの国の賛同を得た決議にしたい。でも、多くの国が形に残る文書レベルで公式に賛同できるには、抽象的な内容にせざるを得ません。

過去の国連会議でも、例えば核軍縮において、決議に曖昧な部分が多く、実際に大国の核廃棄を促進できず、その後の会議でより具体的な決議を模索するということがありました。


具体策で何歩も前進し、確実に解決のゴールにつなげる一方で、足並みそろった国際協力が得られずに難航するのか。もしくは国際社会の足並みはそろう一方で、その一歩は具体性に欠けて、実際の課題解決は曖昧なまま放置されるのか。

そのジレンマの中で、世界共通の利益と自国の利益との微妙なバランスを判断し、一番良い解決策を見つけていきます。

コンセンサスありきではない

最終ゴールとしてコンセンサスを求めていくことは良いと思いますが、コンセンサスありきで議論を進めていくことは課題解決の本質ではありません。

コンセンサスはあくまでも結果論や合意の形態です。大切なのは、「自国にとって、そして全世界にとって良い解決策は何か」という問いに真っ向から答えていくことであって、「みんなが合意できそうな解決策は何か」と探ることではありません。


中高生の模擬国連を見ていると、「コンセンサスを目指そう」という形式的目標が強く、議論の順番が逆じゃないかなと思うことがあります。

時に最初の交渉からコンセンサスありきで動いている光景も目にします。露骨な例として、「あのDRグループとコンバインしたいから、そちらの方針に寄せていこう」と最初のアンモデから訴えている場面に出くわしたことがあります。

最初から落としどころを見つけてスタートしてしまうと、本当に必要な政策議論や国益交渉ができません。予定調和ありきで会議が進むことは「コンセンサスができた」という達成感は得られるかもしれませんが、それは必ずしも国民にとって、そして参加者にとって有益な決議ではないかもしれません。

また、強引なコンセンサスの結果、国益の担保が偏っていたり、内容やプロセスに不満を抱える国を出してしまっていたら、後々実現可能性が乏しくなってしまいます。


やはり、国を代表する大使として、まずは自国の立場、主張をしっかりと話し合い、臆することなくぶつかる中で、ぎりぎりの交渉、妥協をしながら合意形成をしていくというプロセスを大切にしてほしいと思います。

「DRに対する立場と責任」で国益を死守するために会議難民になることを選んだサウジアラビアの事例を紹介しましたが、大使としての責任がコンセンサスうんぬんよりも先に立ち、それによって行動規範を決定していく彼らの姿勢に学ぶところがあります。

その結果、もし会議が分裂しても、今後につながる議論であるし、もしコンセンサスに持っていくことができれば、それが本当の意味で価値のある決議になるのです。

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